2025.10.09
「骨が少なくてインプラントは無理」と言われた方へ。骨を増やして治療を可能にする「骨造成」の全貌
こんにちは。愛知県津島市の歯医者、たかしま歯科 院長の高嶋 俊裕です。
インプラント治療をご希望されて当院に来院される患者様の中には、過去に他の歯科医院で「あなたの顎の骨は薄すぎる(あるいは高さが足りない)ため、インプラント治療はできません」と断られてしまった経験をお持ちの方が少なくありません。インプラントは、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、それを土台として歯を作る治療法です。そのため、家を建てるのに強固な地盤が必要なのと同様に、インプラントを支えるための十分な「骨の量(幅と高さ)」が絶対条件となります。しかし、歯周病や抜歯後の長期放置などが原因で、この骨が失われてしまっているケースは非常に多いのが現実です。
「もう入れ歯しか選択肢がないのか…」と肩を落とす前に、ぜひ知っていただきたい治療法があります。それが、失われた骨を再生させる「骨造成(こつぞうせい)」という技術です。GBR法やサイナスリフトといった専門的な処置を行うことで、かつては不可能とされた症例でも、安全にインプラント治療が可能になるケースが劇的に増えています。しかし、外科手術を伴うため、「リスクはないの?」「費用はどれくらい追加になるの?」といったご不安も当然あるかと思います。今回は、この骨造成について、その種類や仕組み、そして患者様が最も気になるリスクと費用について、詳しく解説していきます。
目次
- なぜ骨が足りなくなるのか?インプラントに必要な「骨の条件」
- 骨を増やす技術①:幅や高さを作る「GBR(骨再生誘導法)」
- 骨を増やす技術②:上顎の難所を克服する「サイナスリフト・ソケットリフト」
- 知っておくべき「骨造成」のリスクと身体的負担
- 気になる「追加費用」と「治療期間」の目安
- まとめ
1. なぜ骨が足りなくなるのか?インプラントに必要な「骨の条件」
インプラント治療において、なぜ「骨の量」がそれほどまでに重要視されるのでしょうか。標準的なインプラント体の太さは約3.5mm〜4.5mm、長さは8mm〜10mm程度あります。これを安全に埋め込み、長期間安定させるためには、インプラントの周囲に少なくとも1mm〜2mm以上の健全な骨の厚みが残っている必要があります。もし骨が薄い状態で無理やり埋め込めば、インプラントの金属部分が歯茎から露出して感染を起こしたり、しっかりと固定されずに早期に抜け落ちてしまったりする原因となります。
では、なぜ骨は少なくなってしまうのでしょうか。最大の原因は「歯周病」です。歯周病は、細菌が歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしていく病気です。歯が抜けるほど重度に進んだ歯周病の場合、その周囲の骨はすでに大きく吸収され、痩せ細っていることがほとんどです。また、「歯を失ってからの期間」も関係します。骨は、歯を通じて噛む刺激が伝わることでその形態を維持しています。歯がなくなると刺激がなくなり、体は「もうこの骨は不要だ」と判断して、廃用性萎縮(はいようせいいしゅく)を起こし、時間と共に骨が薄く、低くなっていくのです。さらに、「入れ歯の長期使用」も、粘膜の上から骨を圧迫し続けるため、骨吸収を加速させる要因となります。このように、インプラントを検討する段階で、すでに骨が不足しているケースは決して珍しいことではないのです。
2. 骨を増やす技術①:幅や高さを作る「GBR(骨再生誘導法)」
骨が不足している場合に最も頻繁に行われるのが、「GBR(Guided Bone Regeneration:骨再生誘導法)」と呼ばれる治療法です。これは、インプラントを埋め込みたい場所の骨の「幅」や「高さ」が足りない場合に、ご自身の骨や人工の骨補填材を使って、骨の再生を促す方法です。
具体的な手順としては、まず歯茎を切開し、骨が足りない部分に、粉砕した自家骨(自分の骨)や骨補填材を盛り上げます。そして、その上を「メンブレン」と呼ばれる専用の人工膜で覆います。この「膜」が非常に重要な役割を果たします。骨が再生するスピードは、歯茎の肉が再生するスピードよりもはるかにゆっくりです。もし膜がないと、骨ができる前に、治りの早い歯茎の組織が入り込んでしまい、骨が再生するスペースを奪ってしまいます。メンブレンで壁を作ることによって、歯茎の侵入を防ぎ、内側で骨を作る細胞だけがじっくりと増殖できる環境を確保するのです。
骨の欠損が軽度であれば、インプラントの埋入と同時にGBRを行うことができます。しかし、広範囲に骨がない場合は、まずGBR手術だけを行い、4ヶ月〜6ヶ月ほど待って骨が出来上がってから、改めてインプラントを埋め込む「二段階法」をとることもあります。この判断は、CT撮影による精密検査の結果に基づいて行われます。
3. 骨を増やす技術②:上顎の難所を克服する「サイナスリフト・ソケットリフト」
上の奥歯(上顎臼歯部)にインプラントをする際、高い頻度で壁となるのが「上顎洞(じょうがくどう/サイナス)」という大きな空洞の存在です。鼻の横にあるこの空洞は、生まれつき大きい人や、加齢・抜歯によって拡大してくる人がいます。すると、上顎洞の底と歯茎の間の骨が、紙のように薄くなってしまい(数ミリ程度)、インプラントを埋め込むと突き抜けてしまうリスクが生じます。この問題を解決するのが「サイナスリフト」と「ソケットリフト」です。
「サイナスリフト(上顎洞挙上術)」は、骨の厚みが極端に薄い(5mm以下など)場合に行われます。歯茎の横から骨に窓を開け、上顎洞の底にある粘膜(シュナイダー膜)を慎重に剥がして持ち上げ、そこに骨補填材をたっぷりと填入して厚みを作ります。手術範囲が広いため身体的負担は比較的大きいですが、確実に多くの骨を作ることができます。 一方、「ソケットリフト」は、ある程度の骨の厚み(5mm以上など)が残っている場合に行われます。インプラントを埋めるための穴から、専用の器具で上顎洞の粘膜を押し上げ、そこに骨補填材を入れます。傷口が小さく、インプラント埋入と同時に行えるため、術後の腫れや痛みが少ないのがメリットです。どちらの方法を選択するかは、残っている骨の厚みによって決定されます。
4. 知っておくべき「骨造成」のリスクと身体的負担
ご質問にある「骨造成のリスク」について、正直にお話しします。骨造成は外科手術ですので、通常のインプラント手術のみの場合と比較して、術後の「腫れ」や「痛み」、「内出血」が出やすい傾向にあります。特に、広範囲に骨を造るサイナスリフトや大規模なGBRを行った場合、術後2〜3日をピークに頬が腫れたり、青あざ(内出血斑)ができたりすることがあります。これらは通常、1週間〜2週間程度で自然に治まりますが、ダウンタイムとして考慮しておく必要があります。
また、最大のリスクとして「感染」が挙げられます。移植した骨が定着する前に細菌感染を起こすと、化膿してしまい、造成した骨が全てダメになってしまうことがあります。これを防ぐためには、術後の抗生物質の服用や、うがい薬による消毒を徹底し、患部を不潔にしないことが重要です。 さらに、「喫煙」は骨造成の成功率を著しく低下させます。*タバコのニコチンは血流を阻害し、骨の再生に必要な酸素や栄養を届かなくしてしまうため、骨が定着せずに失敗に終わるリスクが高まります。そのため、骨造成を行う場合は、禁煙が強く推奨されます(当院では、禁煙をお約束いただけない場合、手術をお断りすることもあります)。その他、上顎洞の手術では、稀に鼻血が出やすくなったり、一時的に副鼻腔炎のような症状が出たりすることもあります。
5. 気になる「追加費用」と「治療期間」の目安
骨造成は、高度な技術と特殊な材料(骨補填材やメンブレン)を使用するため、通常のインプラント治療費とは別に**「追加費用」が発生します。また、骨が固まるのを待つ時間が必要になるため、「治療期間」**も長くなります。
【費用の目安】(※医院によって異なりますが、一般的な相場として)
- GBR法(小範囲):インプラント埋入と同時の場合、1部位あたり3万円〜5万円程度の追加。
- GBR法(広範囲):骨造成のみを先に行う場合、10万円〜20万円程度。
- ソケットリフト:1部位あたり3万円〜5万円程度。
- サイナスリフト:片顎あたり15万円〜30万円程度。
【治療期間の目安】 骨造成を行った場合、移植した骨がご自身の骨と置き換わり、硬くなる(成熟する)までに待機期間が必要です。
- インプラントと同時に行った場合:通常の治癒期間(3〜6ヶ月)で完了することが多いですが、骨の状態によっては少し長引くことがあります。
- 骨造成を先に行った場合:骨ができるまで4ヶ月〜6ヶ月待ち、その後にインプラント埋入手術を行い、さらに結合まで数ヶ月待つため、トータルで10ヶ月〜1年以上かかることもあります。
費用も期間もかかりますが、これは「急がば回れ」です。不安定な骨に無理にインプラントをするよりも、しっかりとした土台を作ってから行う方が、結果的にインプラントが長持ちし、将来的なトラブル(再治療など)を防ぐことにつながります。
まとめ
骨が少ない方のための骨造成(GBR・サイナスリフト)について解説しました。
- 原因:歯周病や抜歯後の放置により、インプラントに必要な骨が不足することは多い。
- GBR:骨補填材と膜を使い、骨の幅や高さを再生させる技術。
- 上顎洞挙上術:上顎の骨が薄い場合、空洞(サイナス)の底を持ち上げて骨を作る。
- リスク:通常のインプラントより腫れや痛みが出やすく、感染対策と禁煙が必須。
- 費用と期間:数万円〜30万円程度の追加費用と、半年〜1年程度の期間延長が必要となる。
「骨がないから無理」と諦めていた方でも、これらの技術によってインプラントが可能になるケースは非常に多いです。 愛知県津島市のたかしま歯科では、歯科用CTによる精密な診断を行い、骨造成が必要かどうか、どの方法が最適かを慎重に判断しています。リスクや費用についても、事前にご納得いただけるまで丁寧にご説明いたします。骨の量でインプラントを迷われている方は、ぜひ一度当院のカウンセリングにお越しください。