こんにちは。愛知県津島市の歯医者、たかしま歯科 院長の高嶋 俊裕です。

歯を多く失ってしまった方にとって、入れ歯（義歯）は生活に欠かせない体の一部です。しかし、日々の診療で患者様とお話ししていると、「入れ歯がガタついて、硬いものが噛めない」「食事中や会話中に外れそうで怖い」「何度調整しても痛い」といった、入れ歯特有の悩みを抱えている方が非常に多いことに胸が痛みます。そうした方に「インプラント」をご提案すると、「全てをインプラントにするのは費用も手術も怖くて…」と、諦めてしまわれることも少なくありません。

実は、そんな「従来の入れ歯」と「固定式のインプラント」の、ちょうど中間に位置する、**「第三の選択肢」があることをご存じでしょうか？それが、今回ご紹介する「インプラントオーバーデンチャー（IOD）」**です。これは、少数のインプラントを固定源にして、入れ歯を安定させる治療法です。先日も患者様から「固定力はどれくらい変わるのですか？」「費用はやはり高いのでしょうか？」といったご質問をいただきました。今回は、この画期的な治療法について、その仕組みからメリット・デメリット、そして気になる費用面まで、専門家の視点から詳しく解説していきます。

目次

1. インプラントオーバーデンチャーとは？入れ歯とインプラントのハイブリッド
2. 驚きの固定力！従来の入れ歯とは「噛む力」と「安心感」が違います
3. 身体的・経済的なメリット：全ての歯をインプラントにするより負担が少ない理由
4. 知っておくべきデメリット：外科手術のリスクとアタッチメントの消耗
5. 気になる費用について：保険は効く？メンテナンス費は？
6. まとめ

1. インプラントオーバーデンチャーとは？入れ歯とインプラントのハイブリッド

まず、「インプラントオーバーデンチャー」がどのような仕組みなのか、分かりやすくご説明します。通常の総入れ歯は、歯茎（粘膜）の上にプラスチックの床を乗せ、唾液の吸着力だけで張り付いている状態です。そのため、顎の骨が痩せていたり、唾液が少なかったりすると、どうしても動いてしまいます。

一方、インプラントオーバーデンチャーは、顎の骨に2本〜4本程度の少数のインプラント（人工歯根）を埋め込みます。そして、インプラントの頭の部分と、入れ歯の裏側に、「アタッチメント」と呼ばれる連結装置（磁石や、ホックのようなボタン式など）を取り付けます。これにより、入れ歯をインプラントに「カチッ」と物理的に固定するのです。

イメージとしては、ただ置いているだけの敷物（従来の入れ歯）と、ボタンで留められている敷物（オーバーデンチャー）の違いのようなものです。ご自身で取り外しができる「入れ歯」の形状でありながら、土台は「インプラント」で支えられているため、従来の入れ歯にはない安定感を得ることができます。まさに、入れ歯の手軽さとインプラントの強さを兼ね備えた、ハイブリッドな治療法と言えるでしょう。

2. 驚きの固定力！従来の入れ歯とは「噛む力」と「安心感」が違います

ご質問にあった「固定力はどれくらい変わりますか？」という点についてお答えします。結論から申し上げますと、劇的に変わります。 従来の総入れ歯（特に下顎）は、舌や頬の動きで浮き上がりやすく、噛む力は天然歯の10〜20%程度まで落ちてしまうと言われています。しかし、インプラントオーバーデンチャーにすることで、インプラントが強固なアンカー（碇）となり、入れ歯が前後左右にズレるのを防ぎます。

その結果、噛む力は天然歯に近いレベルまで回復する場合もあり、お煎餅や漬物、繊維質の野菜、お肉など、これまで諦めていた食材もストレスなく噛めるようになります。「噛める」ということは、食事を美味しくするだけでなく、脳への血流を増やして認知症を予防したり、胃腸への負担を減らしたりと、全身の健康に良い影響を与えます。

また、精神的なメリットも非常に大きいです。「人前で話している時や、大笑いした時に外れたらどうしよう」という不安から解放されるため、ご友人との旅行や外食も心から楽しめるようになります。さらに、上顎の入れ歯の場合、固定力が強いため、口の天井部分（口蓋）を覆う部分をくり抜いて、小さく快適な形にすることも可能です。これにより、食べ物の温度や味を感じやすくなり、発音もしやすくなるという利点もあります。

3. 身体的・経済的なメリット：全ての歯をインプラントにするより負担が少ない理由

歯を全て失った場合のもう一つの選択肢として、「オールオン4（All-on-4）」などの、全ての歯を固定式のインプラントブリッジにする方法があります。これは非常に優れた治療法ですが、多くのインプラント（片顎4本〜6本以上）を埋め込む必要があり、手術の規模も大きく、費用も数百万円単位と高額になります。

それに比べて、インプラントオーバーデンチャーの大きなメリットは、「最小限の本数（下顎なら2本から）」で治療が可能な点です。インプラントの本数が少ないということは、それだけ手術の時間が短く、体への負担（腫れや痛み）が少ないことを意味します。体力に不安のあるご高齢の方や、持病をお持ちの方でも、比較的受けやすい治療法です。

また、本数が少ない分、治療費も大幅に抑えることができます。 「インプラントには興味があるけれど、何百万円もかけるのは難しい」という方にとって、コストパフォーマンスが非常に高い選択肢となります。さらに、ご自身で取り外して洗うことができるため、固定式のインプラントに比べて清掃（メンテナンス）が簡単であることも、将来的に介護が必要になった場合などを考慮すると、大きなメリットと言えます。

4. 知っておくべきデメリット：外科手術のリスクとアタッチメントの消耗

メリットの多い治療法ですが、当然デメリットや注意点もあります。まず、最小限とはいえ「外科手術が必要」であることです。顎の骨にドリルで穴を開けるため、高血圧や糖尿病、骨粗しょう症などのお薬を服用されている方は、内科の主治医と相談し、慎重に判断する必要があります。

また、インプラントオーバーデンチャーは「入れ歯」ですので、毎食後の取り外しと清掃が必要です。「自分の歯と同じように、24時間つけっぱなしが良い」という方には、固定式のインプラントの方が向いています。また、就寝時は原則として外して休めていただく必要があります。

そして、機能面での注意点として、「維持装置（アタッチメント）の消耗」が挙げられます。磁石やゴムのリングなどは、毎日の着脱によって徐々に劣化し、維持力が弱まってきます。そのため、数年に一度は部品の交換（数千円〜数万円程度）が必要になります。これを放置すると、入れ歯が再びガタつく原因となります。また、インプラント自体を長持ちさせるために、定期的な歯科医院でのクリーニングや検診が欠かせないことは、通常のインプラントと同じです。

5. 気になる費用について：保険は効く？メンテナンス費は？

最後に、最も気になる「費用」について解説します。 インプラントオーバーデンチャーは、原則として公的医療保険が適用されない「自由診療（自費診療）」となります。

費用の内訳としては、主に以下の3つがかかります。

1. インプラント埋入費用（手術代＋インプラント本体代）×本数分
2. 入れ歯（義歯）の作製費用（金属床などの自費の入れ歯）
3. アタッチメントの部品代（マグネットやロケーターなど）

歯科医院によって価格設定は異なりますが、一般的な相場としては、インプラント2本を使用する場合で、総額80万円〜150万円程度になることが多いです。通常の総入れ歯（保険適用）よりは高額ですが、全ての歯を固定式インプラントにする場合（200万〜300万円以上）に比べれば、費用を抑えることができます。

また、治療費は「医療費控除」の対象となりますので、確定申告を行うことで税金の一部が還付され、実質的な負担を減らすことが可能です。お支払い方法についても、当院ではデンタルローンなどの分割払いに対応しておりますので、月々のご負担を抑えて治療を始めていただけます。治療後のメンテナンス費用（数千円〜）や、消耗品であるアタッチメントの交換費用もランニングコストとして必要になる点も、事前に計画に入れておくことが大切です。

まとめ

インプラントオーバーデンチャーについて、メリット・デメリットを中心に解説しました。

1. 仕組み：少数のインプラントを土台にし、入れ歯を物理的に固定する治療法。
2. メリット：従来の入れ歯に比べ、固定力・噛む力が劇的に向上し、ズレや痛みが解消される。
3. 比較：全顎インプラントに比べ、手術の負担が軽く、費用も抑えられる。
4. 注意点：外科手術が必要であり、アタッチメント（部品）の定期的な交換が必要。
5. 費用：自費診療だが、医療費控除やローンが利用可能。

「入れ歯が合わなくて辛い、でもインプラントは怖い・高い」と諦めていた方にとって、このインプラントオーバーデンチャーは、人生を明るく変える可能性を秘めた素晴らしい選択肢です。 愛知県津島市のたかしま歯科では、患者様一人ひとりのお口の状態やご予算、ライフスタイルに合わせて、最適なプランをご提案させていただきます。現在の入れ歯にお悩みの方は、ぜひ一度、当院までお気軽にご相談ください。